三谷幸喜作『笑の大学』の英国翻訳版。セリフ劇ということで、日本初演版の舞台のTV放映を前日に必死に観てから行きました(^^;; 。前から3列目のど真ん中だったので、字幕は読みづらいだろうなと思ったので余計に（案の定、字幕は限りなく読みづらかった(涙)）。でも展開や挟まれるエピソードはほぼ同じで、違うのは細かいセリフだけだったので、ストーリーはすんなり入ってきました。オリジナルと違うことの１つは検閲官の人物背景を明確に示したこと。元軍人だとか、義手であること、家庭環境まで丁寧に見せていました。舞台セットも元図書館ということで、高い書棚があり、天井には豪華なシャンデリア、下手に大きく窓を取っていました。ここから見える風景が、暗転毎に（真っ暗にはならない）変わっていって（土のうがどんどん高く積まれていく）面白かったです。暗転の多い舞台は苦手なのですが、こういう演出は楽しい。

日本で英語での喜劇ということで、役者は少々やり辛かったかもしれません。字幕が出るので笑いのタイミングが早かったりしたし、オリジナルの印象が大きい観客も多かっただろうし。それでもマーティン・フリーマンとロジャー・ロイド・パックのそれぞれが演じる間や表情、そして二人の間に生まれる微妙な関係の出し方がとても良かった。マーティン・フリーマンは出てきたときから、ちょっと愛嬌があって可愛くて、憎めない人というのがとてもよく出ていました。検閲官と相対するところでは、作家であるという自負と意地を見せて心の強さを感じさせる。ロジャー・ロイド・パックは喜劇作家と出会ったことで、自らの心が溶かされていく所を丁寧に嫌味なく見せていて好演。何ともキュートなおじ様だわ♪

全体的にはオリジナルの根底にあった悲壮感というのは消えていて、もっとドライで控えめな印象。この印象の多くは作家を演じた近藤芳正とマーティン・フリーマンの役作りによるもの。検閲官の立場を随所に感じさせる前者と、検閲官であっても同じ人間だと思わせる後者。まるで違う印象を与えるけれど、劇作家としての立ち位置は同じように演じきる二人の演技は流石と思わせました。

戦時下での芝居上演をテーマにして、演劇とは、自由とは何かを問いかける脚本。使い古された手法に見えるけれど、三谷幸喜がこだわる“笑い”を中心に据えたことで、よりテーマが明瞭に、そして新鮮になった気がします。やっぱり素敵な脚本だ。
オリジナルは戦場へ行く劇作家を、検閲官が「必ず帰って来い」と見送るベタだけど胸にぐっと来るラスト。英国版は劇作家を見送った後、戦況が悪くなる中、作家が最後に書き直してきた脚本を読んで、検閲官が何度も小さく笑い声を上げるという静かでクールな終わり方。私はどちらも好きだったし、どちらも印象的で素晴らしいラストシーンだったと思う。

まず初めに、私はこの芝居のNY再演版を１週間で７回も観たほど偏愛している(^^;; と言っておかなければなりません。ただ生スペイシーを見たいというだけでNYまで行ったのに、こんなつまんない戯曲(笑)をあそこまで見せきることができる芝居にするなんて、かなりの衝撃でした。スペイシーの後半の独白なんて、ろくすっぽ英語が分かっていないのに、ヒッキーの想いがこちらにズンズン伝わってきて、観ている我々まで涙目になってしまう。そしてそんなスペイシーを突出させない周りの役者たちの芸達者なことに感動だったし、人物を大切にした演出の素晴らしさにも唸らされました。もう８年も前なので、あの感動が私の中で異常に増幅されてますが（その弊害もあるけど…特にアノ人f^^;）。

そんなわけで比べまい！と思っていても、やっぱり比べながら観ている自分がいました。栗山さんは新国立劇場芸術監督最後の仕事に何て難しい芝居を選んだのだろうかと、その果敢な挑戦には拍手したいです。演出家にとってはやはり難しい芝居だと思うのです。何しろ戯曲がつまらない(笑)。夢破れた男たちが酒場でウダウダし、ヒッキーにかき回され、それでも最後はまた元に戻ってウダウダする。それが１シチュエーションで４時間近く続くのだから、演じる方にも観る方にも根性f^^;が必要な芝居です。酒場にたむろしている男たちを数人削ったのは正解だと思いました。一人一人を理解しやすかったし、１幕でヒッキーが出てくるまでの間が少しすっきりしたかなと。でもこの芝居のキモである、ヒッキー、ラリー、パリットの関係が少し希薄だったかなという気はします。この関係の強弱は役者の力も必要な要素ですが、もう少し演出でハッキリ見せれば芝居にメリハリがついたかも。後半バタバタし過ぎて散漫になっていく所が少し気になりましたが、ヒッキーが「妻は死んだ」と告白するまでの１、２幕はとても良かったです。

役者にとっても難しい芝居。それは勢いだけでは見せられない、役の内面を放出してくれないと観ている方に伝わってこないという辛さがあるからだと思います。それでも一人一人は良い演技をしていたと思うのですが、それが個としてだけで成立していて、一つの芝居として良いかと言われればどうだったのだろうか。それが後半、舞台の上でバタバタしてるなあという印象を持った原因かもしれない。市村さんは頑張っていたのだと思います。でも後半の独白は……熱演しているのは分かっても、ヒッキーの心の奥が見えてこないので、台詞も感情もこちらに響いてこないのはとても残念。酒場の仲間をけしかける所も、軽い演技が鼻に付く寸前(笑)で、私の集中力が何度も切れかけました(^^;; 。

この芝居の最重要人物であるラリー役の木場勝己。受けの演技も上手くて良い芝居をしてますが、ラリーの心の奥にある暖かさをもう少し出してくれればもっと良かった。それでも複雑なラリーの心情を細やかに演じていて良かったです。パリット役の岡本健一は厳しかった(汗)。パリットは感情の起伏も激しいし、ラリーともヒッキーとも相対さなければならない重要な役ですが、表現が空回りしてる気がしました。声の通りはいいのですが、パリットの複雑で混乱した感情が伝わってこなかったし、暗い部分があまり感じられなかったのも残念でした。これはヒッキーとの関係が余り明確に描かれてなかったからだと思いますが、ヒッキーと相対することで生まれるパリットの不安定な想いをもっと見たかった。私はパリットに思い入れがめちゃくちゃあるので評価厳しいかも(^^;; 。

２度の延期を経ての公演。例え延期になっても２週目にはかからないだろうと思っていたのですが、ちょっとドキドキものでしたf^^;。しかし延期をしてもなお光り輝く井上ひさしのホンは流石。観客も慣れてる感じ？(笑)　戦後の日本を舞台に、それぞれの自分探し、そして自分に何ができるかと問いかける脚本。小さくみえることでも少しずつでも自分に出来ることをやろうとするひたむきさ。大きな力の前にも屈せず、凛として自分の意志を貫き通す力強さ。自身のアイデンティティーに悩み、苦しみ、それでも自分の道を模索しながら前を向いて歩いていこうとする潔さ。戦後の日本を描きながら、現在の私たちにも問いかけてくる厚みのある内容でした。重い内容ながら、間に生活感溢れるユーモアや劇中歌を絡ませてフッと和ませるところもあって楽しい。

テレビでしか観たことのなかった浅野ゆう子。真っ直ぐな姿勢と京子の内面とがリンクして強くて優しい女性を好演。嬉しい誤算。蔵之介さんは日系二世の役。七三分けの髪型にビックリ(^^;ゞ。でもスッキリとした立ち姿にウットリ。川平慈英は明らかに当て書きの役を溌剌と演じて良い。梅沢昌代と大鷹明良の掛け合いも楽しい。

始まる前、うっかりトイレに行っていたら冒頭見逃しました(号泣)。話しについていけない程ではなかったですが、ちょっと勿体なかった…(不覚)。初演を見ていないのですが、こういうSFものはファントマには珍しい。そして解散してしまった惑星ピスタチオファンとしては、微妙に思い出に浸ってしまったりしてf^^;。ストーリー展開が複雑で、ちょっと置いて行かれそうになる所もあったけれど、それぞれのキャラが立っているので最後まで緊張を切らせず観られました。途中で挿入されるサイドストーリーもとても魅力的。この辺りは初演と変えてる感じがする。

今回も前作『レッド・リバー・バレー』に引き続いて上瀧さんが客演で、またまた格好良い役を貰ってます(^_^)。ダッシュの頃より肩の力が抜けて更にステキになってる♪あわさんのジェイソンがめちゃくちゃ格好良かった。男前！