『Death of a salesman（セールスマンの死）』(Eugine O'neill Theatre)

−−３列目上手側−−

演出：ロバート・フォールズ
作　：アーサー・ミラー
出演：ブライアン・デネヒー、エリザベス・フランツ、ケヴィン・アンダーソン　他

ブロードウェイの劇場はどこも入り口から場内への扉が近いので、音のないシーンになると外の車の音などがよく聞こえてしまいます。どこも古い劇場だからなのか、壁が薄いのか……。でも場内は古き良き時代の建物という感じで、とても居心地が良いのです。 水曜日のマチネでしたが、ほぼ満席でした。客層はお年寄りの方が多かったです。若い人もポツポツとはいますが。 芝居は非常に完成度が高いです。いい脚本があって、いい役者がいて、そしてそれをまとめ上げる演出がある。場面転換も回り舞台を効果的に使っていて視覚効果も楽しいし分かり易い。転換がひっきりなしに行われるけれど、忙しい感じはまるでないです。とても上手い作りだと思う。寝室、台所、子供達の部屋など、場面が変わっていくのだけれど、一つ一つのセットはとても簡素で、セットより役者の演技をよく見えるようにしている気がします。 その役者さんですが、妻リンダ役のエリザベス・フランツが評判通り素晴らしい芝居を見せています。押さえた演技の中で、子供達に心の内を伝えるところでの激しさを対照的に見せていて感動的。過去の時代に戻ったときの演技が最初はいまいちわざとらしく見えてしまったのだけれど、芝居が進むにつれて気にならなくなりました。この辺りは息子役の２人にも言えるのだけれど。 その息子ビフ役のケヴィン・アンダーソン。父親に理解されず、また自分自身をも持て余しているように見えるこの役をとても上手く演じています。現在のビフよりも、過去のビフを生き生きと演じているのでとても説得力がある。父親に「自分の本当の姿を見て欲しい」と感情をぶつける所の演技は緊迫感があって、迫力があります。

主役ウィリー・ローマン役のブライアン・デネヒー。一幕途中で声を落として話す場面があるのですが、少し声の通りが悪い気がします。私の席が壁に近かったからかもしれませんが。でも芝居は上手い！……というより、共感のできる魅力的な役作りをしているので、ウィリーの感情がこちら側にストレートに伝わってきます。戯曲を読んだ時には感情移入出来る人だとは思えなかったけれど、とても人間味溢れるキャラクターとして作り上げています。死に向かっているという暗さが、ちょっとした動きやしゃべり方にもよく見える。不安げな表情がとても印象的でした。息子ビフと心を通わせたシーンは感動的だし、迫力があります。受けの芝居も上手い。ウィリーが最後に死しか選択出来なかったことがやり切れないし、とても哀しい気分にさせられます。

　

それ程複雑ではないけれど、入れ子になっているストーリーを分かり易く見せています。個々のキャラクターを大切にして丁寧に見せている演出。印象的だったのは子供達が小さかった頃の父、ビフ、ハッピー（次男）の関係。父親はすぐにビフの肩に手を回すけれど、ハッピーは自ら父の手を取って肩を抱いて貰っているシーン。何回か出てくるシーンですが、現在の家族の関係を思うととても印象的なシーンでした。

ブロードウェイ公演も３ヶ月目に入って芝居全体がこなれてきているので安定感があります。今年の賞レースでの大本命の作品でしょう。（★★★★★）