『コペンハーゲン』 　　Copenhagen

新国立劇場小劇場

２００１．１１．１５（木）１９：００

作：マイケル・フレイン 翻訳：平川大作 演出：鵜山仁

キャスト： ニールス・ボーア...江守徹 ヴェルナー・ハイゼンベルグ...今井朋彦 マルグレーテ...新井純

物語：1941年夏、ナチス占領下のデンマークのコペンハーゲン。ユダヤ系デンマーク人の物理学者ボーアの自宅に、かつての生徒であり友人であるドイツ人物理学者ハイゼンベルグが訪ねてくる。時は第二次世界大戦真っ直中。ナチスの核研究に携わっているハイゼンベルグが、連合軍と通じている研究者を訪ねる真意、、、。

原子を思わせる舞台セット。ヤバイ、物理、全然分かりませんf^^;。観る前に物理をそれ程詳しく知らなくても大丈夫と聞いていたけれど、流石に少々不安になりながらの観劇。しかしこの迫力ある脚本を前に、そんなこと忘れるくらい芝居に見入ってました。科学と政治とサスペンスが混ざり合った、スリル溢れる素晴らしい脚本。

ボーアを訪ねてきたハイゼンベルグという一点から、大きな広がりを見せる厚みのある展開。難解で複雑だけれど綿密に編み上げられた膨大なセリフから見えてくる、科学者同士のエゴ、野心、愛国心、そして倫理観。２人はその時何を考えていたのか。そして未だに謎と言われるこの２人の会談が別の形で終わったなら……。そんな想像力を刺激させられる、一瞬も気の抜けない展開に身震いと感動。こういう人の心の中にズンズン切り込んでいく芝居ってやっぱり好きだ。

とはいえ、量子力学やら不確定理論等の専門用語がバシバシ出てくると、思いっきり訳分からなくなり(涙)、分かりやすく噛み砕いて説明してくれてもやっぱりよく分からない(号泣)。加えて人の名前も一杯出てきて誰が誰やら(泣)。でもそういう専門的な難解さがこの芝居の大きな流れに殆ど影響を与えていないというのも凄い。理解しているに越したことはないのだろうけれど、分からなくても問題なくこの芝居は楽しめます。対話だけでこの深い人間ドラマを構築したマイケル・フレインの力に脱帽。

役者にとってはとても難しい芝居。セリフを自分の中で理解して、説得力あるものとして外に放出しなければならないという、役者の力量が試される芝居です。その点、どの方もとても頑張っていたと思う。時々言葉の上を滑ったような所も無くはなかったのですが、こっちが疲れてたのかもしれないと思ったりもする(^^;; 。でも言葉が滑ると観ていて一瞬ふっと気が抜けてしまうので、役者には怖い芝居だなと。

ハイゼンベルグを演じた今井朋彦さんが非常に良かったです。言葉の理解力がもっとも必要な難しい役柄だったと思うのですが、それを十分に感じさせてくれる役作りと演技。セリフの後ろに情景が浮かんでくるような感じさえしました。科学者としての自信と探求心、そして国を愛する心。その二つの心の狭間で揺れ動き、苦悩し、葛藤する姿が痛々しく、また感動的。その今井さんの芝居をガッチリと受け止める江守さんも良かった。アクの強さを殆ど感じさせない受けの芝居。

ウエストエンドでは、本命視されながらオリヴィエ賞作品賞を逃してるこの作品。それでもロンドンで高く評価されてロングラン。ブロードウェイでは2000年の賞レースで作品賞を軒並み獲って、１年以上のロングランになってます。

どこかで再演されたらまた観たい作品。名作です。

（★★★★☆）