『リアル・シング（The Real Thing）』

エセル・バリモア劇場
　　　5/5（金）20:00〜　２階A列5番

作：トム・ストッパード
演出：デヴィッド・ルヴォー

セット＆衣装：VICKI MORTIMER／照明：MARK HENDERSON&DAVID WEINER／音響：JOHN A. LEONARD／ 舞台監督：BONNIE L. BECKER

＊キャスト＊
ヘンリー：スティーヴン・ディレーン／アニー：ジェニファー・イーリー／マックス：ナイジェル・リンゼイ／シャーロット：セーラウッドワード／ デビー：シャーロット・バリー／ビリー：オスカー・ピアース／ブロディー：ジョシュア・ヘンダーソン

《物 語》

脚本家のヘンリーと、役者のアニー、シャーロット、マイケル。この二組の夫婦に、若い役者、問題を起こした軍人を巻き込んで複雑に絡み合う彼らの関係を描いた物語。

ジェニファー・イーリー，スティーヴン・ディレーン
（Photo by Alastair Muir）

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去年ロンドンのドンマーで幕を開け、好評でその後オルベリー劇場に移って大ヒットした作品。今回観た9本の中で一番良かったのがこの作品でした。男女間の複雑な関係を軽いタッチで描いていて、ユーモアもあるし、皮肉も効いてるし（といっても、多分ほとんど分かってないんだろうなあ(泣)）、本当に完成された作品という気がしました。ロンドンでヒットしたのも分かる。会話の妙というのか、セリフが凄く楽しくて深い作品なので、もっと英語が分かればさらに面白いんだろうけど…。

トム・ストッパードの脚本は、複雑で入り組んでいるけれど、その会話の素晴らしさは戯曲を読んでいるだけで十分引き込まれます。前半使った会話や劇中劇のセリフが後になって効いてくるあたりは読んでいて何度も「をを！！」となりました。一筋縄ではいかない奥深いホン。その脚本の素晴らしさが、ルヴォーのシンプルで鮮やかな演出によって更に輝きをましてくる。

日本のt.p.t.の芸術監督でもあるデヴィッド・ルヴォー。こんなに軽々しく、サラっとしていて、遊び心もふんだんにある演出をするのかと日本で観るルヴォー作品との肌触りの違いにビックリ。いやあ、懐深いです。脚本と役者の良さの両方を上手く引き出してて流石。

役者はロンドンからそのままブロードウェイに来ているのですが、どの人も素晴らしいパフォーマンスを見せてます。特に今年のトニー賞を取ったスティーヴン・ディレーンさんのヘンリー（脚本家）はとても魅力的。奥さんには「面白みのない人」なんて言われてて、理屈っぽくて、セリフを喋っているかのように延々と語りまくる(^^;; ヘンリーは、ともすればつまらない（暑苦しくもあるかなf^^;）人になってしまいそうだけれど（実は戯曲を読んでるときは、全然魅力的に見えなかったヘンリー、、、）、ディレーンさんはこの役に不思議な魅力をもたらしてます。常にＴシャツ、綿パンにスリッパという出で立ちは、決してスマートじゃないし、格好良くはないのだけれど、シニカルで、ユーモアがあって、知的で、そして何よりとてもチャーミング(*^_^*)。シャイな笑顔の合間に一瞬だけみせる弱くて傷つきやすい面は、その表情を客席に明確には見せてくれないのだけれど、彼の心情が痛いほど伝わってきて切なくなります。それでもそんなことをサラッと吹っ切ってくれるのが嬉しいけど。

そのヘンリーの愛情を一身に受ける羨まし〜〜〜いジェニファー・イーリー。奔放というか、自分に正直に生きてる女性で、羨ましくもあり妬ましくもあるアニーだけれど、演じるジェニファーの知的で暖かな雰囲気が、そんなマイナス面をすべて取り払ってくれるかのようでとても良い味。トニー賞おめでとう＞ジェニファー！こんなヘンリーとアニーを見ていると、お互いを本当に必要としているんだろうなと素直に納得してしまいます。

芝居は場面転換が凄く多いのですが、シンプルなセットを効果的に使って上手く見せてます。完全に暗転にしないので、ブチブチ切れてる（これが凄くニガテなもので）感じがしないので、次の場面への流れもスムーズ。後ろの壁に二階への階段を作っているだけで、上の空間をあけて開放感を出しているのもこの芝居をカラッと見せている要因かも。

トム・ストッパードの作りこまれた脚本を、演出過多にならずにサラリと仕上げたルヴォー。そして明るく爽やかな空気感をもたらす役者の演技。とても完成度の高いお芝居に、気持ちよく劇場を出た夜でした。（★★★★★）