『アマデウス（Amadeus）』

ミュージックボックス劇場
　　　5/4（木）20:00〜　1階B列110番

作：ピーター・シェーファー
演出：ピーター・ホール

デザイン：WILLIAM DUDLEY／照明：PAULE CONSTABLE／音響：MATT MACKENZIE／舞台監督：SUSIE CORDON

＊キャスト＊
サリエリ：デヴィッド・スーシェ／モーツァルト：マイケル・シーン／コンスタンツェ：シンディ・カッツ／ヨーゼフ二世：デヴィッド・マッカラム／スウィーテン伯爵：マイケル・キーナン／ストラック伯爵：J.P.リントン／ローゼンバーグ伯爵：テレンス・リグビー

《物 語》

「モーツァルトは自分が殺した！」と告白するサリエリ。そのサリエリがモーツァルトに対して持つ複雑な感情を、二人の出会いから回想していく。

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神に愛されし天才モーツァルトと、その天才の才能が分るだけの才能しか与えられなかった信心深い宮廷作曲家サリエリ。ある時、サロンで自分が書きたくても書けなかった神々しい音楽にであったサリエリを一瞬にして壊したのは、その作曲者である破天荒な性格の若者モーツァルト。観ている側の多くは、凡人サリエリの中に自分たちの姿を投影するでしょう。自分がサリエリだったらと思うと怖いし、その心情が少なからず分るだけに向かっていく方向が間違ってるとは思っていても辛い。冒頭、セットに鏡を使って観客全体を映し出すところが「これは17世紀の物語だけれど、今のあなたの姿かもしれないよ」という問いかけでもあるようで、ちょっとドキっとします。

初演の舞台がブロードウェイで大ヒットし、もっとも成功したストレートプレイとも言われるこの芝居。演出はその初演の舞台も担当したピーター・ホール。初演の舞台を観ていないので何とも言えないけれど、映画、日本での翻訳舞台と比べても、今回の演出スタイルはちょっと古臭く見えてしまう。特にサリエリが観客に語り掛けるシーンで、周りの役者の動きをすべて止める手法は今ではあまりみない演出かなと。却って新鮮かというとそうでもなかったりして(^^;; 。ちょっとウザったく見えてしまいました。他の役者をスローモーションにする……ってのもベタですが(^^;; 、なにかもっと違う手法があったんじゃないかなあ。ちょっと残念。でもセット、衣装を含めた全体の印象は凄く好きです。

そんな演出のちょっとしたマイナス面を補ってあまりある役者陣の力のこもった演技！特に主役二人は素晴らしいパフォーマンスを見せています。

サリエリを悪魔的な不気味な人物ではなく、等身大の宮廷作曲家として演じるデヴィッド・スーシェ。私たちをよりサリエリの側に近づけるのに成功していて、その行動に真実味があります。決して人好きのする人物ではないけれど（友達にはなりたくない(^^；； )、その人物像への観客の理解度を高めることに成功していると思う。老人から若々しい過去のサリエリへと変わる様も上手い！モーツァルトの楽譜を見て人目でその才能に屈服せざるを得ないと悟ったときの、憧れとも嫉妬ともつかないような表情にはグッときます。

天才の閃きと、その頑固さ、甘さを同居させて見事なモーツァルト像を描き出してみせるマイケル・シーン。近づき難い天才の輝き、上手く世渡りできずに苦悩する姿、遊び心がありすぎてどこまでが本心でどこまでが冗談なのか分らない破天荒な性格。その全てを説得力を持って演じる魅力的なモーツァルトです。こちらもお友達にはなりたくない人ですけど(^^;; 。後半の父親の亡霊に悩まされ、健康を維持出来なくなりながらも深みのあるまさしく神々しい音を紡ぎ出す姿は、モーツァルトが苦手な私でも、その音楽に何か独特の雰囲気を見出せる魅力的な力があります。父親を失った悲しみを全身で表すマイケルにもグッとくるし…。ホントに泣いてるもんな＞マイケル(T_T) 。

神に挑戦したサリエリと、神の音楽を作り出したモーツァルト。デヴィッド・スーシェとマイケル・シーンの存在感に圧倒されたお芝居でした。（★★★★）