ドイツ映画祭2005

青い棘　　Was nützt die Liebe in Gedanken

■監督：アヒム・フォン・ボリエス
■脚本：アヒム・フォン・ボリエス／ヘンドリック・ハントレークテン
■キャスト：ダニエル・ブリュール（パウル）／アウグスト・ディール（ギュンター）／アンナ・マリア・ミューエ（ヒルデ）

●Xフィルム・クリエイティブ・プール製作
●ドイツ第二テレビ放送（ZDF）共同製作
●2004年作品　●90min
●アルバトロス・フィルム配給

　公式サイト

パウルとギュンターは真実の愛を信じ、人生の美しいときにこの世を去ろうと誓い合う寄宿学校の親友。1927年のある週末を２人はギュンターの別荘で過ごす。そこで開かれたパーティーにパウルが想いを寄せるギュンターの妹ヒルデ、ヒルデの恋人でありギュンターの昔の恋人ハンス、パウルに淡い想いを抱くエリがやってくる。このパーティーでの互いの心の動きがその後の悲劇を招く。実際にあった“シュテークリッツ校の悲劇”を元にした物語。
　

退廃的で瑞々しい……って相反する言葉のような気もするけれど、そんな想いが残った作品でした。とにかく映像がとても綺麗で美しくて、印象に残る場面が多くあります。彼らが過ごす別荘の程良く枯れた美しさ、湖のボート、夕食の場面でのヒルデの挑発的な瞳と、パウルの伏し目がちな眼、そんな二人を面白そうに見るギュンター。森の木々の間を走るパウルとギュンターの白いシャツ。フランス版ポスター

胸のはだけ方が艶っぽいけど若々しい。やっぱり白シャツはいいわ～。ギュンター、ヒルデ、ハンスの白シャツスリーショットもとってもステキだったです。

役者もとても良いです。奔放なヒルデを一途に愛すパウルを演じるダニエル・ブリュールの素直で清潔感のある初々しい佇まいがとっても好き。両手をポケットに入れて上目遣いで遠慮がちに微笑まれるとクラクラきます(^^;; 。純情繊細はにかみ青年という超可愛い役♪を、子犬のように演じていて横に置いておきたいわ～f^^;。ダニエルの地に足のついた素朴な演技は地味な印象を受けるけれど、何故か画面に映るとふーっと眼がいってしまう不思議な魅力を持っている。派手に演じなくても役の心の表情がとてもよく分かる演技をするところが好きだ。

ギュンターを演じるアウグスト・ディールは自分の想いをグッと心においていながら、ある瞬間にパンッと弾けてしまいそうな不安定なキャラクターをストレートに演じていて好印象。ヒルデを演じたアンナ・マリア・ミューエの背伸びした大人になりたがる少女も魅力的で良かった。エリの真っ直ぐな瞳も好き。

キャラクターも良かったけれど、その関係の見せ方の微妙に不安定な距離感が面白かった。ギュンター、ヒルデ、ハンクの奇妙な関係、パウルとギュンターの信頼感、パウルとヒルデの甘くて酸っぱい感情、パウルとエリの穏やかな関係。どれもその関係を踏み込んで明確には見せてくれないのだけれど、そこが逆に想像力をかき立てられて好きでした。もっと圧迫感のあるものにも出来ただろうけれど、そうしなかった潔さが良い。今年の秋日本公開予定。

ゾフィー・ショル－最期の日々
　　Sophie Scholl - die letzten Tage

■監督：マルク・ローテムンド
■脚本：フレート・ブライナースドルファー
■キャスト：ユリア・イェンチ（ゾフィー）／ファービアン・ヒンリクス（ハンス）／アレクサンダー・ヘルト（モーア）／ヨハンナ・ガストドルフ（エルゼ）

●ゴルトキント・フィルムプロダクション、ブロート・フィルム製作
●バイエルン放送、南西ドイツ放送、ａｒｔｅ共同製作
●2005年作品　●117min
●キネティック配給

1943年、ナチス抵抗運動の学生組織“白バラ”のゾフィー・ショルが、反ナチのビラをミュンヘン大学の構内で撒いたとして兄ハンスと共に逮捕される。取調官の前で初めはビラとは無関係だと言っていたが、兄が自白したと聞いてゾフィーも関与を認める。モーアの激しい尋問にも毅然とした態度で反ナチの姿勢を貫くゾフィー。その先に待っていたのは厳しい裁判だった。実在の人物を当時の資料を掘り起こし、当時と同じ場所で多くの撮影を行ったきめ細かい作品。
　

とても力強い作品。そう感じさせる最大の要因はゾフィー・ショルを演じるユリア・イェンチの清楚な雰囲気に似合わない力強い演技があるから。素晴らしい瞳の奥の輝きと凛とした話し方。実在のゾフィーもこんな人だったんじゃないかと思わせます。映画の中盤は殆どゾフィーと取調官モーアとのやりとりですが、とても緊迫感があってピリピリした空気が伝わってくるようでした。モーアを演じたアレクサンダー・ヘルトの受けの演技もとても良かった。

映画は冒頭で“白バラ”の活動を少し見せるだけで、殆どが逮捕後のゾフィーの話し。もう少しビラ制作や兄ハンスのエピソードも欲しかった気がするけれど、そうなると凄く長い映画になってしまうか…。“白バラ”の活動を少し知ってから観に行った方がいいのかもしれない。

ゾフィーの取り調べやその後の３人の裁判などは、議事録の新たな発見などもあって、きめ細かく脚本に反映されているそうです。監督はモーアの息子やショル家の人等関係者にインタビューして、人物像を膨らませていったようです。ディテールに凝ったと言えば、ロケ地もなるべく当時の所で行い、ミュンヘン大学のビラを撒いた所や、ハンスとゾフィーの家の前の通り、ビラ制作をしていた所の前の通りなどがそのまま使われたそうです。

心の鼓動　　Kammerflimmern

■監督／脚本：ヘンドリック・ヘルツェマン
■キャスト：マティアス・シュヴァイクヘファー（クラッシュ）／イェシカ・シュヴァルツ（ノヴェンバー）／ヤン・グレゴール・クレンプ（フィドー）／フローリアン・ルーカス（リッチー）

●ババリア・フィルム製作
●コンスタンティン・フィルム、arte、バイエルン放送共同製作
●2004年作品　●100min

子供の頃、家族で乗っていた車で事故に合って両親を亡くしたクラッシュ。トラウマを抱えたまま成長した彼は救命士として働いている。夢の中でも事故を再現してしまうクラッシュだが、いつも最後には同じ女性が現れて目が覚める。ある時、同僚と現場に向かったクラッシュは、その夢の中の女性とそっくりなノベンバーと出会生う。と死の間で“生きる”ことを見つめた物語。
　

最初の予定では鑑賞リストに入っていなかったのですが、初日に会場で見たポスターに写っていた主演の男の子のキュートさにコロッとなって急遽リスト入り(爆)。血塗れだけど何だか妙に目を引く子だ。というわけで、予備知識ゼロで観に行きましたが（というか、どの映画も予備知識殆ど無いのですが）、見て良かったと思わせる作品でした。コロッとなったポスターはこちら～英語圏映画祭用

とにかく可愛いのです、主演のマティアス・シュヴァイクヘファーが（しかし長い名前で覚えられない…(大汗)）。

子供の頃のトラウマを抱えて成長し、心の均衡を保てないまま大人になってしまったようなクラッシュ。どこか心ここにあらずという雰囲気と少しの怠惰感。それでも救急救命士として人の命を助けることを職業としている。人を助けたいという想いもあるだろうけれど、心に痛みを持つ人と同化したいと無意識に感じているようにも見える。道で寝込んでる人にも声を掛けたりして、同僚も呆れるくらい仕事しちゃうクラッシュ。でもそれが無理に見えない。そこには祖母に育てられたクラッシュの豊かな感情が垣間見えて、人の可能性を感じさせてくれる。そんな複雑キャラをマティアスくん（既にクン付けf^^;）が好演。本人もそのまんまのキャラなのではと思わせるほどハマってる。そう見えてしまうのはマティアスくんの映画を観たこと無いからというのも大きな要因ですが。でも公式サイトへ行ってみると、クラッシュとはちょっと違う雰囲気。そうか、あれは演技だったか。エライぞ、マティアス（もはや呼び捨て(笑)）。それにしても、こーんなキュートな救命士なら、用もないのに救急車を呼びたくなっちゃうわ。出会えるかどうかは思いっきりギャンブルだがf^^;。

映画の方は舞台挨拶した監督が「最初は脚本だけという話しだったのだが急遽自分が監督することになり、複雑にしたのを後悔した(笑)」と言っていたように、夢と現実とが交錯する、ちょっと複雑な作り。それでも夢と現実が同化していってしまうクラッシュの心をキッチリ捉えてくれるので見応えあります。クラッシュの少年時代を演じた子も可愛かった。金髪に眼がパッチリでとってもキュート。そして主人公の同僚役でフローリアン・ルーカスが出てました。彼は、どこかハンパでハジケてるけど気のいいヤツを演じさせたらピカイチですな。出勤前にヤクをやったりするようなどーしよーもないような救命士だけど、意外にお仕事はキッチリとこなす。クラッシュに対しても、朝っぱらから用もないのに家の前をウロウロしたり、現場へ向かうクラッシュにちょっかいだしたりとハチャメチャだったりするけれど、クラッシュの気持ちの変化を微妙に感じ取っていたりして根っこの部分で良い友達って感じ。それはもう一人の同僚で、妻子持ちでもあるフィドーもそう。やっぱりほっとけない魅力がクラッシュにあるのだわー。

タトゥー　　Tattoo

■監督：ローベルト・シュヴェントゥケ
■脚本：ローベルト・シュヴェントゥケ
■キャスト：アウグスト・ディール（マルク）／クリスティアン・レトゥル（ミンクス）／ナデシュダ・ブレニケ（マーヤ）

●ラウンジ・エンターテイメント製作
●スタジオ・カナル、B.A.プロダクション共同製作
●2002年作品　108min

アカデミーを卒業したばかりのマルクと、心に傷を持つミンクスが追う謎の連続殺人事件。調べていくうちに、被害者の身体にイレズミがあり、それを剥いでいることが分かる。闇でイレズミ売買が行われているらしい。
　

連続猟奇殺人事件を追う作品。冒頭に派手な爆発シーンを持ってきたり、新人刑事とベテラン刑事が事件を追ったりと結構正統派。でもこういうの好きなので最後まで引き込まれました。新人刑事を演じるのはアウグスト・ディール。アカデミーに通いながらクラブでヤクを買ったりしてるマルク。同級生が「殺人課には２人しか入れないらしい…」なんて話しているのに、マルクの希望はなるべく楽なデスクワーク。それがある時、殺人課のミンクスに目を付けられ、無理矢理殺人課に入れられる所からマルクの刑事人生が始まる。ミンクスのパートナーとして連続猟奇殺人事件を追っていくウチに、緩かった顔が段々刑事の顔になっていくところが良い。彼もいい眼をした俳優だわ。

サスペンスとしての緊張感も迫力もあるし、刑事２人のキャラクターの絵が着込みも良い。映像は色味を落としたシーンが多くあって、それが逆に血の赤を際だたせていてとても綺麗でした。日本公開して欲しい作品。…と思ったら既にビデオになってましたf^^;。

ヒトラー～最期の12日間　　Der Untergang

■監督：オリヴァー・ヒルシュビーゲル
■脚本：ベルント・アイヒンガー
■キャスト：ブルーノ・ガンツ（ヒトラー）／アレクサンドラ・マリア・ララ（ユンゲ）／ウルリッヒ・マッテス（ゲッペルス）／ハイノ・フェルヒ（シュペーア）／ユリアーネ・ケーラー（エヴァ・ブラウン）

●コンスタンティン・フィルム製作
●デゲト・フィルム、EOSエンターテイメント共同製作
●200４年作品　155min

　公式サイト

第二次大戦末期の1945年ドイツ。戦況は悪化の一途を辿り、誰の目にも敗戦は明らかだった。ベルリンの地下壕にこもって指揮をするヒトラーと側近達の緊迫した12日間をヒトラー最後の秘書ユンゲの眼を通して描く。